
数百のみかん農家さんが集まっている、和歌山の"みかんどころ"有田市。その中にある的場農園には、なんと「本州で一番はじめに栽培した」栄誉を持つ果物があります。
それは「マンゴー」。的場農園で作られる美しい輝きをもったアップルマンゴーは、生食はもちろん洋菓子からドリンクにいたるまで数多くの加工品にも利用されている果物の女王です。

生まれてからずっとみかんに囲まれて育った的場さんは、常々「この恵まれた風土と気候を持つ有田で、みかんを越える果物が作れないだろうか?」と思っていました。有田川の恵みの水と海軟風吹く温暖な気候の有田は和歌山県屈指の果樹地域と言われ、生産量もトップクラスの豊かな土地。「この土地の力を最大限に引き出した果物を作りたい」という生産農家としてのこだわりがあったのです。
的場さんがはじめてマンゴーに出会ったのは1994年の頃。和歌山にいくつもの付属農・漁場を持つ近畿大学で試験栽培されていたのが亜熱帯地方の果物であるアップルマンゴーでした。深いルビーのような色とツヤを持ち、艶やかな香りがあり、なにより濃厚な味わいのアップルマンゴーは的場さんがいままでに体験したことのないものだったのです。
栽培についての基本知識はあったのですが、実際に栽培を行うには苦労と試行錯誤の連続だったと言います。一年目には用意した苗のほとんどが枯れ、木がなかなか育たず、受粉はどうするのか、温度管理はどうするのかと、ノウハウもなく、ほとんど白紙の状態からのスタートでした。
「あの頃は本当に、もう来年はやめよう。とばかり考えていました」と的場さんは笑いながら話してくれました。
みかんの本場 有田において、柑橘のことについてであれば頼れる人の意見や指導を乞うこともできますが、マンゴーはそれまで作った人がおらず、自分の柑橘栽培の経験では思うようにはいきません。あるものといえば生産農家としての勘。そして有田の風土の力を信じること。それだけが頼りでした。「自分が受けた感動をお客様に伝えたい」という気持ちが的場さんを支え続けてきたのでしょう。
的場さんが満足できるマンゴーが採れ始めたのは、はじめてマンゴーと出会ってから6年めの夏。
色とツヤ・形の良いずっしりした400g超の完熟マンゴーをもぎ取り、包丁で三枚におろして放射状の切れ目を入れ、おそるおそる口に運んだ的場さん。女王の名に恥じない上品な甘さと香りが口いっぱいに広がり、「これで売れる」と確信したそうです。こうして本州で最初のマンゴーは完成しました。的場さんは遂に作り上げたのです。
「黒潮マンゴー」は収穫できましたが、販路の問題が残っていました。有田で大量に作られているみかんであれば、大量生産による大量出荷も可能です。しかし「黒潮マンゴー」は少数のマンゴー農家でしか作られておらず、知名度もないので最初から探すしかなかったのです。
シールや箱を作り出荷の準備は整っても、営業の経験もなく交渉に慣れない生産者の的場さんにとって、それは作物に取り組むより難しく厳しい仕事であったことでしょう。マンゴーの集荷作業をする多忙な中でなんとか自力で紹介のためのチラシを作り、スーパーや飲食店をまわる日々が続きました。実自体がまだ珍しいマンゴーは、販売店や消費者にとって購買の対象になりにくいのが現状でした。的場さんは「食べてもらわないとはじまらない」と、マンゴーをトラックの荷台に積み、販売店やファーマーズマーケット、百貨店、パン屋さんなど、買ってくれるところを探し続けたのです。
そして最後に出会ったのが、和歌山市でオープンしたばかりのケーキショップ「ル・パティシエ ミキ」の三鬼シェフでした。
和歌山市中島にある「ル・パティシエ ミキ」オーナーシェフの三鬼さんは、常々「和歌山のフルーツを使ったケーキでお客様を満足させたい」と考えていました。「ル・パティシエ ミキ」では、イチゴはもとよりみかんや桃やブルーベリー、そしてイチジクにいたるまで、独自のセンスと味覚のバランスでつくられています。
おそるおそる差し出した的場さんの完熟マンゴーを口にした三鬼さんは、その味と香りに感動し、そして的場さんに言ったのです。「このマンゴーをぜひうちのケーキに使わせて欲しい」と。
こうして的場さんと三鬼さんの関係が始まったのです。まじめな栽培とこだわりを持った品質を信頼し、今では的場さんの生栽培産したフルーツを使ったさまざまなケーキが「ル・パティシエ・ミキ」で販売されています。
的場農園が作る「完熟黒潮マンゴー」は、2008年には関西国際空港内の販売店にも出荷されました。これは的場さんの作ったマンゴーが、「関西の味」として認められたからに他なりません。はじめて口にしたマンゴーを栽培して以来、10数年の月日を経てマンゴー栽培の苦労が報われたと言えるでしょう。
的場農園では、夏のマンゴーの他にもみかんや南津海、清美タンゴール、不知火などが栽培されており、的場さんはすべての生産物に対しこだわりを持って取り組んでいます。そのこだわりとは「感動を伝えること」であり、その気持ちはきっと消費者に伝わると信じて的場さんは栽培を行っているのです。
消費者を見据えたまじめな栽培と、産物の魅力を引き出すパティシエの技がひとつとなって生み出された「完熟黒潮マンゴーのタルト」は、ふたりの作り手の心が込められたフルーツケーキです。
的場さんが初めて出会ったマンゴーの感動が、三鬼さんの感動となり、そして私たち消費者の感動に繋がるのです。
生産者からひと言
消費者の方から「おいしかったよ」という言葉を聞くことが何よりうれしいことです。一年に一度しかないほんものの旬をぜひ味わってください。

完熟黒潮マンゴー(250〜400g)

マンゴーの花

熟す前のマンゴー

南津海(なつみ)の摘果前

不知火